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※素人の戯言なので観賞本数増えるごとに点数は微調しています。悪しからず。

2013年10月17日木曜日

映画『コズモポリス』80点


DVDにて鑑賞。

監督は鬼才デヴィッド・クローネンバーグってことで
今作の仕上がりもかなり好き嫌いの分かれる作品。
だからこの80点は人にお勧めする80点では無い。

過去の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』や、
イースタン・プロミス』も面白いけど好きにはなれなかった。

そんなわけで『コズモポリス』も相変わらず
クロ-ネンバーグ全開の世界観で進んでいく。


簡単に言えば28歳にして大富豪に成り上がり、
イケメンで富と名声と女と全てを手に入れたような主人公が

















「元」の暴落で破産していくという話なんだけど、
個人的に最も印象的だったのが最後のシーン。



主人公を暗殺しようとする
ハゲでデブの元従業員(クビになった)のおっさんと
主人公がお互い銃を向け会いながら話し合うんだけど、













おっさんはひたすらに
「お前を殺して俺は人生に意味を持たせるんだ!」
と、いわゆる「負け組」が「勝ち組」を逆転したいが故に
吐くような良いとも悪いとも言えない「痛い」台詞を言い放ち、

それに対して「勝ち組」投資家は

「意味って何?」
「世の中理論だよ」

みたいな調子で序盤から保ち続ける能面のような
クールな表情で上から目線でハゲでデブのおっさんをいなす。

ところが次第にお互いがお互いの気持ちを吐露することで、
お互いがお互いに不安定になり始める。

ハゲでデブのおっさんは「意味を持たせる」とか
一見哲学的な発言を唾飛ばしながら言ってるくせに

「俺がクビになったのは『臭いから』」

という、超現実的な、これぞリアリズムみたいなことを言い始める。


そしてそれに呼応したのか知らないが、
エリートイケメン投資家は物憂げな表情と声で

「俺の前立腺は左右非対称だ」

とかいう謎の身体的コンプレックスを告白し出す始末。


この一瞬コントじみたお互いの告白は、
僕らが何か求めがちな「自分」とか「意味」とかより
最も切実でリアリティーのある現実なんじゃ無いか。


これに直接通じるかといったらそうでは無いかもしれないが、
最近、村上龍が爆笑問題のラジオに出たときに
村上春樹に関して話していたことで非常に印象的だった箇所があり、
少し長くなるが以下、引用する。


村上龍
僕は、春樹さんと一番違うのは、(村上春樹の作品には)
自意識の揺れとかっていうのがあって。
『自分はあの時、あの判断をして良かったんだろうか』とか。
それはスゴイ大事だと思うんですよ」

爆笑問題・太田「はい」

村上龍「僕は、そういう自意識の揺れってよりも、

その自意識の揺れを吹き飛ばしてくれるものが好きなんですよ」

爆笑問題・太田「そうそう」

村上龍「自意識の揺れにも、凄く大事なところは

いっぱいあると思うんだけど、ただ自意識の揺れって、
考えてみるとキリがないんですよ」

爆笑問題・太田「うん」

村上龍「答えが出ない」

爆笑問題・太田「若者っぽいですよね、それって」

村上龍「そうですね(笑)」

爆笑問題・太田「凄く」

村上龍「それを吹き飛ばすものって、

結構、パワーが必要なんですよ。たとえば、セッ○スとか、戦争とか。
戦争とか、それが良いってことではないんです。
ただ、自意識の揺れを吹き飛ばしてくれるものが好きなんですよ。
スゴイ音楽とか…

(中略)

爆笑問題・太田「村上龍さんの場合は、
現実に今起きていることを…たとえば、
半島を出よ』なんかでも、一時期から経済ってことを
抜きでは小説を書けないっていうところで、
どんどん取り込んでいくじゃないですか。
取り込んでいって、『現実の実態がこうなんだから、どうするか』
っていう。意識の揺れなんか、心の中の葛藤から飛び出して、
今の社会でどう生きるか、もがいて転んで血だらけになってるんですよ」

村上龍「うん」

爆笑問題・太田「でも、村上春樹さんは、

そこからちょっとスーッと上に居て、あんまり殻から出てこないですよね」

村上龍「うん…」

爆笑問題・太田「それはとっても若者らしい悩みだと思うんだけど、

僕なんかは、ギャーギャーもがきたいんですよ。
だから、共感を感じるのは、
今をどうするかってやってる龍さんの方に、共感を持つんです」

村上龍「あぁ」

爆笑問題・太田「意識の揺れだなんだってところと、

今まさに日本がアベノミクスだなんだって言ってるじゃないですか。
株の上げ下げとか外国の投資家、
投機家のさじ加減で一喜一憂するじゃないですか。
でも、それと実態とのズレで日本中が混乱してるところじゃないですか?」

爆笑問題・田中「うん」

爆笑問題・太田「安倍さんがやってることと、

実際に商店街で商売してる人の違いみたいなものが、
W村上との違いとが、俺の中に重なるんですけどね」

村上龍「う~ん」

爆笑問題・田中「言ってること分かりますか?」

村上龍「ちょっと分かります。

ただ、たとえばね…あんまり良い例えじゃないかもしれないけど…
中央線で暗い顔して佇んでるオジさんがいるとしますね」

爆笑問題・太田「はい」

村上龍「日本はいつも自殺が多いんですけどね。

そのオジさんが、なんで暗い気持ちになって
自殺まで考えてるかっていうと、意識の揺れなのか、
早期退職で解雇されたのか…それは分からないんですけど、
僕としては、解雇されたからだと思うんですよ」

爆笑問題・太田「うん」


世界は数字で出来ている』より引用。



長い引用になってしまったが、言いたいことは
村上龍の最後の言葉に集約されている。

そのオジさんが、なんで暗い気持ちになって
自殺まで考えてるかっていうと、意識の揺れなのか、
早期退職で解雇されたのか…それは分からないんですけど、
僕としては、解雇されたからだと思うんですよ」

そう、春樹が描くような一見崇高な「意識の揺れ」みたいなものは
決して「現実」に生きる世界においては、
人々が行動する上での真理では無い。

正しい表現かどうかは分からないが、
人間はもっともっと単純で原始的で本能的なのだ。


だからコズモポリスで描かれているように
一見哲学的で前衛的に振る舞う登場人物達も
「死」という「リアル」なものに直面したときに、


「俺は臭いからクビになった」
「俺の前立腺は左右非対称」

とか言い出してしまうのだ。
なぜならそれが彼らの真実だから。


で、ラストシーンがまた挑戦的で良い。
「意味」にこだわってたおっさんが、
「理論」信者の主人公の後頭部に銃を向け、
今にも撃ちそうなんだけど撃たずに
だらだらしゃべったまま映画は終わる。


こいつらのどちらが勝者だろうと関係ない。
というかその勝敗には興味ない。
そのドS的神目線で映画を撮るクロ-ネンバーグは
やはりただ者では無い。



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