注意事項

※素人の戯言なので観賞本数増えるごとに点数は微調しています。悪しからず。

2013年4月28日日曜日

映画『ザ・マスター』採点不能



この映画は採点不能だ。
鑑賞後、TOHOシネマズシャンテで僕は途方に暮れた。

「この映画は何だったんだ?」

わからない俺がバカなのか?
それとも監督がクレイジーすぎるのか?
いや、それともただの駄作だったのか?

そんな自問自答が止まらない。
そんな映画は久しぶりだ。

それはデビットリンチの映画のように、
「もう一回見れば謎が少し解ける」みたいな
類いの問いではなく、それはそれは果てしない禅問答なのだ。


ある程度の数、映画を見てきた自分だと思ってきたけれど、
この映画を理解できない自分はまだまだだ…なんて
勝手に批評家気取りで落ち込んでいた僕でも言えることを
とりあえずまとめてみようか。



★ホアキンフェニックスの怪演ぶり
これはどんな素人が見ても分かる自明の事実だろう。






★同じくホアキン演じるフレディの社会不適合者ぶり

終始笑えないレベルの社会不適合者、
ノブコブ吉村氏の破天荒なんて可愛いもんだよ。

フレディは写真家をやっていたんだけど、あるとき
やってきた客に、何の前触れも無くいきなり照明を顔に近づけて、
熱がってるのに、無言でさらに照明を近づける。
そりゃもちろん客は熱いから、わけがわからないなりに
おい!熱いよ!的なリアクションを返すんだけど、
もう変なスイッチ入っちゃってるフレディは、
力尽くでさらに客に照明を近づける。

で、耐えきれなくなった客はブチ切れて、つかみかかるんだけど、
さらに意味がわかんないのが、フレディはそれ以上に
逆ギレして、客を突き飛ばす。そして子供のように走って逃げる。
もはや常人とは思えない、圧倒的な社会不適合者。理解不能。
それ以外に言葉が見つからない。

このシーン、映画館で笑って良いのか分からなかった。
画だけ切り取ると非常に滑稽なんだけど、
その滑稽さを笑うべきなのか、フレディマジで頭おかしいわ
狂ってるわ的な、笑えない狂気の臭いも醸し出すから
どういうリアクションして良いか分からなくなるのだ。
ただ、印象には残る。ひたすら。
今でもあの画は鮮明に思い出せる。


★気づいたら女性が真っ裸で踊る謎の宗教団体の気味悪さ

教祖役を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンの















ホアキンフェニックス顔負けの演技力はさることながら、
彼が率いる宗教団体は、何かがおかしい。

序盤から目に見えたおかしさはないんだけど、
何か違和感というか、怖さを醸し出す。醸し出し続ける。

そして気がつくと、みんなで歌って踊りながら、
若い女からおばあちゃんまで、全員が裸になって
ワイングラス片手に踊り出すシーンが現れる。

もうわけがわからん。

なんで裸なの?

映画館の誰もが思ったんじゃ無いだろうか?
だが、そんな問いへの解答は、一向に現れる気配は無い。
だけど、脳裏には深く刻まれる。
今でもあのシーンは手に取るように思い出せるのだ。




★論理的・因果的関係性を排除した印象派映画なのか?

そう、つまり、先ほど書いた、なぜ写真家のフレディがいきなり
理不尽すぎる対応で客に切れたのか、
そしてなぜ、唐突に真っ裸で女性達が踊り始めたのか、

この映画に対する違和感の正体は、
そんな圧倒的映像のインパクトに相応の解答というか、脚本性が皆無なのだ。

ホフマンの嫁が、狂気の塊のように暴走し続ける
ホアキンフェニックスと「もうこれ以上関わりを持たないで!」
なんて絶叫するまでは納得いくんだけど、
その後、なぜいきなりホフマンのチンコを握って、射精させたのか?
このシーンの意味は?

これにも解答は無い。いや、無かったように見えた。僕はね。
そんな風に、解答が無いことで気持ち悪さ倍増。
その解答を置き去りにして、つまり観客を置き去りにして、
淡々と映画は続くのだ。


だがどうだ。
『The Master』の公式HPを見てみると、
ノーラン、サムメンデス、フェルナンドメイレレス、ベンアフレック、
園子温、中島哲也、行定勲と、蒼々たるメンツが激賞の嵐では無いか。


だがどうだ。
そのコメントを見ると全てが抽象的だ。

「美しい」だとか「天才」だとか「異形」だとか「魂」だとか…

そういう「見る人が見れば分かる」的な映画感が半端ないぞ。
でも、そんな巨匠達の激賞コメントを見て思った。

この映画はやはり論理とか綿密な構成とか、ましてや宗教問題とか、
そういう壮大なテーマであったり、ストーリーを魅せる映画では無い。

ポール・トーマス・アンダーソン(通称PTAって言うらしいけど、何それ。)が
思う、考える、感じる、最高の1カット、1シーンを、
それこそ「魂」込めてとりきった、そしてそれをつなぎ合わせた。

そんな映画なんじゃ無いかって。

そこに論理や理論や解答は無い。

いや、もしかしたらPTAの中ではあるのかもしれないけど、そんなの知らない。
そんなの知らなくて良い。

限りなく究極的に芸術に近い映画なんじゃないか。
そういうことにしておこう。

そうしておけば「あーよくわかんなかった!!」って、
俺は堂々とTOHOシネマズシャンテの中心で叫べるわけだ。

そして、ドヤ顔で

「The Master見た?あの映画難しい?あぁまぁね、あれは見る人を選ぶよ、
ピカソの絵なんかと一緒さ、いつの時代も名作と狂気は紙一重なんだよ。」

なんてカプチーノを飲みながら村上春樹的に言ってやれる。
PTA万歳!!!!!!

2013年4月10日水曜日

映画『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』78点



Amazonで991円だったから、DVDを購入して久しぶりに見た。
やっぱりガイリッチーはデビュー作である今作と『スナッチ』だ。

スナッチ同様に、99年の映画とは思えないほどの
スタイリッシュな映像と編集。

比べるのすら失礼だとは承知だけれども、
同じ映像を扱う人間として、
彼の編集・映像加工技術は非常に刺激的で、
少なくとも映像編集という観点では、
「映画」という概念を覆したと言っても過言ではないと思う。

そんな今作でデビューしちゃったもんだから、
それはそれは圧倒的な才能を英国人は感じたことだろう。

スナッチも同様だが、秀逸な脚本で描かれる群像劇。
最後の最後で点と点と点と点が線に結びつく。

その着地までに向かうカタルシスは相当なもので、
見ている者を興奮させる。

そして忘れちゃいけないのが、脇を固める個性的な俳優陣。
どれも印象的で、一度見たら忘れない顔とキャラばかり。
さらに、今をときめくジェイソン・ステイサムの
デビュー作でもあるわけだけど、彼もまた良い。

ただやっぱり、作品としては、
ロックストックとスナッチが斬新すぎて
格好良すぎて面白かったために、
ガイリッチーはあのマドンナと結婚しちゃったりもするんだけど、
それと同時に長いスランプに陥るわけで…
世の中うまくいきませんね。

最近はシャーロックホームズシリーズで復活を遂げた
なんていう噂も聞いていますので、
そちらの方でもう一度、あのガイリッチーを堪能できることを
願いつつ、鑑賞してみようかと思います。

2013年4月1日月曜日

映画『フライト』72点



毎回抜群の存在感を放つデンゼル・ワシントン先輩が主演の映画。

PR見て、ドキュメンタリータッチのシリアスドラマを
想定していたら、ところがどっこい。

デンゼル先輩が演ずるは、完全にアル中、薬中の天才パイロット。
そんな破天荒を極めたパイロットが、
トラブルによって墜落確実の飛行機を
まさかの天才的な逆さま飛行などの荒技で不時着させ、
デンゼル先輩が一躍ヒーローになるという展開。

ところがどっこい。
デンゼル先輩から薬物反応は出るわ、
アルコール反応は出るわで、一転犯罪者に。
そりゃそうか。

そもそも冒頭からコカインを鼻からしっかり吸い込む
デンゼル先輩が登場するので、
なるほど、これがPG12たる所以かと理解。

予想以上のデンゼル先輩の薬中ぶり、破天荒振りは
驚かされたものの、そこはロバート・ゼメキス監督。
綿密かつ、重厚な脚本で、最後まで飽きさせない
アカデミー賞ノミネートもうなずける作品だった。

話を戻すと、この映画の太い縦軸は、

アル中で薬中だけど大惨事を防いだ天才パイロットは
「犯罪者なのか英雄なのか?」

これがこの映画の根源的なテーマであり、
見る側はこの一見単純そうに見える疑問を
頭の隅に置きながら鑑賞することを強いられる。

そんな『ゼロダークサーティ』にも似た
ハリウッドおきまりの勧善懲悪では
二進も三進もいかない、そんな違和感を覚えながら
鑑賞することを強いられるのだ。

そもそも薬中でアル中でもなければ、
この事故は未然に防げたんじゃ無いか?

いや、この自己は自然災害で、不可避なモノであって、
その状況でも冷静かつ適切かつ天才的な技術で
大惨事を回避する能力を発揮できたのは、
薬と酒のおかげなのか?

みたいな葛藤。
鑑賞者側の自発的な葛藤だ。
そんな葛藤をデンゼル先輩の懐の深い演技力が
さらに増長させるわけで。

だから最後のシーンも、
息子が刑務所にいるデンゼル先輩に対して
「父さんは何者なの?」と問う。

その答えは、実際に鑑賞したあなたに突きつけられているのだ。


みたいな一見深いような映画に見えるんだけど、
どうも鑑賞後に「感動一塩!」とはいかないこの映画。

なぜか?

それは終始この映画に鑑賞側が感情移入できないから。
シリアスなドキュメントものかと思いきや、デンゼル先輩は生粋の薬中。
そんな破天荒なドラッグストーリーとシリアスな正義か悪かみたいな
軸がきちんと整理できないまま話が突進していくので、
どすればいいかわからなくなるわけだ。

というわけで劇場で見て後悔しない基準である75点には少し及ばない。