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※素人の戯言なので観賞本数増えるごとに点数は微調しています。悪しからず。

2014年2月10日月曜日

映画『ザ・イースト』80点


2014年2月4日観賞。

米新聞紙「L.A. Times」が選ぶ
“2013年最も過小評価された映画”ランキングで
1位に選ばれたのがこの『ザ・イースト』だ。

※ちなみに2位は現在公開中の『LUSH』、
3位はこのブログでも79点を付けた『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ


確かにもっと話題になって良い秀作だった。


製作には名匠リドリースコットが名を連ね、
何よりも凄いのが、主演のブリット・マーリング。
彼女の名を世に知らしめたのは『アナザープラネット』
この作品も実は脚本に名を連ねる才女
























製作・脚本・主演の3役を兼ねた彼女は、かなりの才色兼備で、
ジョージタウン大学で経済学の学位を取得し、
ゴールドマンサックスの内定を蹴って業界入りしたという
異色の経歴の持ち主。


だが、この作品を観れば、
その経歴から繰り出された脚本であることに納得せざるを得ない。

そんな高レベルの社会派サスペンスに仕上がっている
この映画のストーリーを先におさらいしておこう。


環境汚染や健康被害をもたらす企業を標的に過激な報復活動を重ねる
環境テロリスト集団「イースト」からクライアント企業を守るため、
正体を偽ってイーストへ潜入した元FBI捜査官のサラ。

当初は彼らのやり方に反発を覚えるが、次第にその理念に正当性を感じるようになり、
カリスマ性をもつリーダーのベンジーにも心ひかれていく。

やがてイースト過去最大のテロ計画が実行されることになり、
サラは当初の目的と自らの本心との間で揺れ動くが……。

映画.comより引用


「環境テロリスト」という言葉、存在自体、
我々日本人にとってあまり馴染みのないものだ。

唯一と言って良いほど馴染みがあるのは、日本の調査捕鯨船も
攻撃の対象になったことで有名なシーシェパードだろう。














実際自分もこの映画を観るまで、環境テロリストに関しては
シーシェパードくらいしか名前を知らないし、
その活動内容すら全くといって良いほど理解していなかった。


だが、この映画は観賞者に「環境テロ」の是非を
主人公のサラを通じて、痛いほどに突きつけてくる。

こういう観賞者側に考えさせるキッカケを与える、
そんな映画が良い映画だと思う。



この映画における環境テロリスト集団「イースト」が行う
「環境テロ」は、例えばこんなものだ。


ある製薬会社が新薬を開発した。
その新薬は難病(何の病気か忘れた・・・ごめんなさい)の
特効薬として有効で、副作用もないまさに夢の薬・・・


だが、イーストは信じない。
そんな都合の良い薬があるわけがない・・・
薬局で安価に買えるはずがない・・・

それもそのはず。
イーストのメンバーの知り合いは、その薬の副作用で
脳に障害を起こしてしまい、最終的には鏡で自分を見ても
自分であることを認識できなくなってしまったのだ。

当然そんな体になった人は、社会的地位を奪われてしまい、
最後には自殺してしまう・・・

そんな薬を大手をふるって、CM打ちまくって笑顔で宣伝する
クソ企業を許すわけには行かない・・・

ちなみにイーストには医学の専門家もいるので、
学術的アプローチからのテロの根拠も持ち合わせている。

そしてイーストは行動=環境テロを起こす。
その企業の開発記念パーティーに潜入し、
企業幹部達が乾杯の際に飲むシャンパンに、
その新薬を入れ込むのだ。

※ちなみにこれはスカルスガルド演じるイケメン過ぎるイーストのリーダー
















製薬会社のCMが「真実」ならば、
いや、本来「真実」でしかあり得ないはずなのだが・・・
そのシャンパンを飲んでも何の問題も無いはずなのだ。

そしてイーストは犯行声明を発表する。
我々は製薬会社の役員達のシャンパンに、
お前らがどや顔で作り上げた新薬を投入したと・・・

企業側は自信を持ってカメラの前でこう答える

「何の問題もありません。だってこの薬は安全なんですから!」

そりゃそうだ。だって普通に薬局で買える薬なんだから。
問題が起きてしまったら、僕らは何を信用して薬を飲めば良い?


ところが・・・


数日後、カメラの前で「問題は無い」と言っていた役員の女性は

「なんだか私が私じゃ無いみたいなんです・・・
 自分が誰だかわからない・・・」


イーストのテロは見事「成功」してしまうのだった。

この一部始終を劇場で見せつけられた僕は、
何か胸くそ悪く、感情の居所がわからなくなった。

あなたはこのテロを支持するだろうか?
または正面切って不支持と言えるだろうか?


かつてガンジーは、

「目には目を」では世界が盲目になるだけだ。

と言ったらしいが、


イーストの環境テロは、まさに「目には目を」である。
一体本当の「悪」は誰なのか?どこにあるのか?
環境テロという行為でしか、真実を議論できないのか?


観客である我々が突きつけられる、「究極の道徳授業」は、
潜入スパイとして彼らを監視し、罰する側の人間であるはずの
サラのメンタルを大きく揺さぶってしまう。

左のエレン・ペイジは良い味出してた
SUPER!のあの子とは思えない・・・















さらに、彼女の潜入スパイとしてのメンタルをブレブレに
してしまうのがイケメンカリスマリーダー・ベンジーの存在だ。















単純に言えば、彼女は彼に恋してしまう。
捜査に支障来しまくり、公私混同甚だしい!

ネット上のレビューでは、

彼に抱かれたことによって急に彼女に感情移入出来なくなった、
そこで「ザ・女」みたいな感情論見せられたら説得力ないでしょ・・・

みたいな意見を散見するが、僕はそうは思わない。
サラを演じ脚本を担当した本人もインタビューで、

「映画『ソルト』は好きだけれど、
あれは完全に男性の観点から執筆され、
それを女優が演じた感じだった。

女性が主人公のスパイ映画は、
常に男性の観点で描かれている気がするの。

だからわたしたちは、この映画で主人公の女性が
映画の経過とともに、より女性的になっていくように描いたの」


と、答えているように、意図的に「女性らしさ」を
脚本の展開に盛り込んだことが分かる。

完全にカリスマリーダーに惚れちゃってるサラ














ここからは自分の想像になってしまうが、
意図的に「女性らしさ」を盛り込むことで、
つまりそこに「感情」を差し込むことで、
彼女の言う「男性的スパイ映画」によくある、
「善悪二元論」に囚われることを避けたのでは無いか。


女性の感情論を挟むことであえてメッセージ性みたいなものの
明確性を取り払い、ネットにおける批判の言葉を借りれば、
「説得力」を排除し、あくまでも観客に善悪を考えさせる、
そういうスタイルを貫いたのでは無いか。

そう解釈するのであれば、というか勝手にそう解釈してみると、
この映画は非常の質の高い、
過去例を見ないスパイ映画であると言えるし、
「傑作」の部類に入る80点を与えてしかるべき映画だと結論づけた。


長くなったが、この映画でもう一つ非常に印象に残ったシーンがある。
それは、イーストのメンバーが遊びで行うゲームだ。














こんな風に皆で円形に座り、
順番に真ん中に置いたビンを回す。

そして、そのビンが止まった方向にいる人間に対し、
ビンを回した人間は、やりたいことをいう。

例えば「ハグさせて」とか。

つまりこのゲームは、日本でいう王様ゲームなのだが、
圧倒的に異なる部分がある。


それは王様の「命令」では無く、「自らの欲求」なのだ。

日本の王様ゲームは「1番が4番とキス」みたいに、
指名された人間は半ば強制的に、受動的に、
自分の意思とは関係が無く、王様の命令を受ける。

だが、このゲームでは、
王様が自らの意思を表明しなければならないのだ。
能動的なゲームなのだ。

「ハグしたい」「一緒に踊らせて」「キスさせて」などと・・・

実はこの作業って自分たちに置き換えてみると分かるけど、
なかなか気持ち悪いし、恥ずかしいし、カロリー高い。
って思うのは俺だけ?

つまりイーストにおいては、自分が思ったこと、
やりたいことをやる、言う、伝える、ってことが重要なんだ
ってことを表すゲームなんだろう。

そんな気持ち悪いゲームで、サラはイケメンカリスマリーダーに、
「キスさせて」って言うんだけど、
「ハグで良いかい?」って流されてしまう。

つまり、欲求を受け止める側にも、受動性というか、
日本における王様ゲーム的「強制」は存在せず、
自分の意思で王様の要求へのリアクションをとれるのだ。

人間とはこうあるべきだ!と見せつけるかのように
イーストたちは楽しげにこのゲームをやっているんだけど、
観ているこちらは気持ち悪くて仕方なかった。

そんな僕はまともなんでしょうか?
それとも・・・

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