注意事項

※素人の戯言なので観賞本数増えるごとに点数は微調しています。悪しからず。

2013年2月6日水曜日

映画『ハートロッカー』75点



監督が同じ『ゼロダークサーティ』の予習として鑑賞。

あの『アバター』をなぎ倒し、アカデミー賞の主要部門をさらった作品だが、
この映画は評価が非常に難しい。


何が難しいかって?



War is a drug-戦争とは麻薬だ

というメッセージからこの映画は始まる。

しかし通常の戦争映画とこの映画が異なるのは、
「一見」反戦反米映画に見えないことだ。

通常の戦争映画というのは、
鑑賞中や鑑賞後、何かしらの強いメッセージみたいなものを
否が応にも感じ取らされることが多い。

もちろん、通常の戦争映画と同様に、
イラク戦争を爆弾処理班を通して描いたこの映画は、
常に死と隣り合わせとなる米兵の恐怖みたいなものを、
兵士達を通して感じさせられるという点では、
「戦争って恐ろしい」という単純な感情的反戦反米メッセージは存在している。

だが、この映画は何かが少しだけ違う。

そこには派手なドンパチ銃撃戦は無く、
人を殺しすぎて狂った兵士も存在しない。

ただひたすらに、爆弾処理班のある兵士達の「日常」がある。
ドキュメンタリーとして彼らの戦争を切り取っている。

だから、通常の戦争映画のように、
正視できなくなるほどの「戦争のリアル」みたいなものがない。

戦争映画によくある、極限の状況で相手を追い詰め、
追い詰められ、でも最後はぶっ殺す!
嗚呼俺は何をしてるんだ!的な起承転結が無い。

だからそれを求めて鑑賞する(それを求めるというのも悪趣味だが)と、
圧倒的に物足りない。

圧倒的に静かな戦争映画なのだ。

ただ、今やスターの仲間入りをしたジェレミーレナー扮する
超優秀爆弾処理班ジェームズがギリギリの状況で爆弾を処理する過程を描くシーンは抜群。

斬新なカメラ割りで、ジェームズの一挙一投足に観客は凄まじい集中力を強要される。
このリアリティーを演出する監督には素直に脱帽。


しかし、ちょっと待て。


中身の感想はそれで良い。
でも何かが引っかかる。

反戦反米でも戦争讃美にも見え無いこの映画

じゃあ何が言いたいんだ結局?

僕は最初、この映画がアカデミー賞かっさらったのは、

もうそろそろ
「反戦!反戦!イラク戦争は最低だった!」
みたいな風潮やめにしようぜ?な、みんな?

みたいなアメリカの空気が受賞させたんじゃ無いか、
そう思った。

この映画は直接的にイラク戦争を否定していないように「一見」見えるし、
かといって肯定しているようにも見えない。

ただそこにあるのは兵士達のリアル。
柔らかに反戦を描いて、優れたドキュメンタリー作品として成立させているように見える。
だから受賞できた・・・

いや、でもちょっと待て。

この映画の終盤、見ていて何かむずがゆい、
気持ち悪いシーンがあった。

ジェームズはその素晴らしい爆弾処理能力で
数々の爆弾を処理し、多くの人命を救い、帰国する。

そこに待っているのは嫁と赤ちゃん。

そしてシーンはいかにもアメリカ的なでっかいスーパーに。
ここでジェームズは、なぜか嫁さんと赤ちゃんと別々に
でっかいカートを引いて買い物を始める。

僕は最初、このシーンを見て「必要なのこのシーン?」
と思ったが、嗚呼なるほど、

命に危険をさらしたけど、無事帰国できて良かったね、
ウォルマート的ないかにもアメリカの日常画で安心してね
みたいな安価なメッセージなのかなと思った。

いやちょっと待て。

この後のシーンを見てこのちょっと待て感は確信に変わる。
ジャームズは自分の赤ちゃんに向かって
何とも親として夢も希望も無いことを言い放つ


「僕の歳になると、びっくり箱が布と針金で
 できてるって分かってしまうんだ」。

「年をひとつずつ取るごとに、大事なものが多くなって、
"特別なもの"とは思えないものが出てくるんだ」。

「そのうちに、ほんとに大好きなものが何かも忘れてしまう。」
「君が僕の歳になったときには、
 父親のことも記憶の一片になってしまうんだよ」。


赤ちゃんに何言い聞かせてんだよジェームズ!
とか思い始めた僕は、ちょっと待てよ感の正体を知る。

そう、つまりジェームズは、映画冒頭の

War is a drug-戦争とは麻薬だ

の言葉通り「戦争中毒者」なのだ。

自分の赤ちゃんに言い聞かせたことはジェームズ自身の話であって、
彼は大人になって大切なものが分からなくなって、家族を一番大切だと理解しながらも
結局爆弾処理班での成功の快感を忘れられずまたあの危険な戦場に戻る。


だから映画の終わりも、またジェームズがイラクに戻り、
任務を開始するところで終わる。


ここまで考えてみて、この映画は評価が難しい。
やっぱり反戦反米映画なのか。

ジェームズみたいな中毒者を生産するのは危険だぜ!

的な反戦・反米メッセージなのか?


いやでも、この映画はやっぱり何かが違う。
その違和感は、この映画は反戦ではあるけど反米ではない
その違和感じゃ無いのか?


そもそもイラク戦争始めたのはアメリカなわけなんだけど、
ここに描かれてる兵士達は、さっきも書いたように


「戦争」中毒者であって、彼らの背景にあるモノは「戦争」だ。

つまり「戦争」が彼らを中毒者にしてしまった。
この映画はそういう描き方をしている。

犯人は「アメリカ」ではないのだ。
だから、アメリカってホント傲慢なクソッタレな国家!
みたいなものは鑑賞後感じない。

そういうヌルっと反米を取り除いた反戦映画が
アカデミー賞をかっさらったということは、やっぱり最初持った感想の

もうそろそろ
「反戦!反戦!イラク戦争は最低だった!」
みたいな風潮やめにしようぜ?な、みんな?


みたいなアメリカの空気が受賞させたんじゃ無いか、

っていうのは強ち間違っていなかったのかもしれない。
アメリカ批判にアメリカ自信が疲れちゃって、
でもやっぱりアメリカはいつでも「正義」であるべきだから

「戦争は良くないよ!そうだろみんな?これを見ろよ!」
「よくわかんない青いCG野郎に興奮してる場合じゃ無いよ!」

みたいなことでアバター落選。
そういう構図なんじゃ無いか。

長くなったけど、そういう意味で、「良い映画!」と手放しで拍手できない、
が、しかし、こういう現代アメリカを非常に巧妙に

暗喩的に画が切った映画という意味では評価は高い・・・
やっぱり評価が難しいと言うことで、
次回作まで様子見という意味も込めてこの得点に。

0 件のコメント:

コメントを投稿