注意事項

※素人の戯言なので観賞本数増えるごとに点数は微調しています。悪しからず。

2018年8月13日月曜日

映画『ウインド・リバー』90点



あらすじは…

ネイティブアメリカンが追いやられた
ウィンド・リバーで、女性の遺体が発見された。
FBIの新人捜査官ジェーン・バナーが現地に派遣されるが、
不安定な気候や慣れない雪山に捜査は難航。
遺体の第一発見者である地元のベテランハンター、
コリー・ランバートに協力を求め、共に事件の真相を追うが……。



凄い映画を見た。
鑑賞後、圧倒的に体力を奪われる映画。














「少女はなぜ死んだのか?」

というサスペンス軸と

「辺境地に追い込まれたアメリカ先住民」

という実話というか現実の
大きく分けて2軸で話が進んでいくのだが、
この映画で描かれている現実は、全く知らなかった。


そんなまさにアメリカ社会の闇とも言える現実を
社会派思想映画になりすぎず、
都市部からやってきたFBI警察官という視点を上手く借りて
悲惨すぎる現実を照らし出し、
良い味出してたFBI警官役のエリザベス・オルセン
アベンジャーズのスカーレット・ウィッチ役














そこにさらにミステリー的要素を織り込みながら、
常に緊張感をキープするサスペンス映画としても成立させるという
超高度な技術で完成された映画だ。


地元を知り尽くすハンター役・ジェレミーレナーの
静かに怒りと悲しみを表現する演技は流石だった














最後の圧倒的迫力の銃撃戦は、
この銃撃戦の緊張感は下手な戦争映画を簡単に凌駕する














冷静に見ると急にフィクション感増したな!って感じはあるけど、
観賞中のリアルタイムでは、
ただただ善人が生き残ることを祈ることしかできなかったので、
充分にフィクションとして成立してるわけだ。

決して派手な映画では無いが、
我々が知らずに生きている重大な社会問題を
上質なサスペンスとして突きつける
非常に素晴らしい観るべき映画だ。

2018年5月10日木曜日

映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』80点


フランスロケの機内で観た。
正直この手の映画ってガチファンがいらっしゃるから
あまり批評とかするべきではないとは承知の上で…

普通に面白い。

が、当たり前だがアイアンマンやスパイダーマンを始めとした
このスーパーオールスター軍団の各々のシリーズを
しっかり理解&予習できているかいないかで
だいぶその楽しさの深度は変わってくる。
(という視聴レンジという意味での80点)
”キャプテンアメリカ”って!って我に返っちゃう奴(私)に
アメコミを語る資格はない。











が、たいして思い入れのない鑑賞者(自分)ですら、
これだけヒーローたち詰め込みながらも、
各キャラの特徴を笑いを織り交ぜ、
しっかり際立たせて楽しめるというのは相当なものだと思う。

脚本の秀逸さ言うべきか。

あと何よりもいいのは、
どうせヒーロー軍団勝つんでしょっていう
おきまりの勧善懲悪をあざ笑うラスボスの圧倒的強さ。
強すぎてなんか絶望的に悲しくなるくらい強い。
強すぎて引いちゃう最強ボス・サノス












全然各キャラのファンでもないのに
クリリンが死んだ時並みの悲しさすら感じる自分がいる。

そして完全に続くじゃん!っていう
普通は欲求不満につながりかねない終わり方も
普通に早く次見たいっていう欲求にも繋がるし
そういう意味でエンタメ映画として高レベルであった。

2018年2月8日木曜日

映画『ブレードランナー2049』87点(前作を観る&前作が好きという条件付き)


163分という上映時間はさすがに長いけども、
さすがすぎるぞヴィルヌーブという感じ。

公開当時は鬼スベりしたものの、
カルト的人気を誇った巨匠リドリースコットが手がけた前作。
ビデオ化にあたり複数のパターンのエンディングが編集で追加された前作。
それだけ複数の解釈を生んだカルト的作品だったわけだ。






















それだけファンが世界中にいる1982年の作品の続編を
35年後というワケのわからんタイミングで
「作る?」ってオファーされて快諾するメンタルが
すでに常人とは思えないが、

そのハードルをしっかり超えるべく、
前作を徹底的に愛し、ヴィルヌーブ的に解釈し、
その上でリスペクトし尽くした上で完成させた正当すぎる続編。
※ただしコレは、前作をそれなりに面白いと思った人にしか
  楽しくない映画であることは間違いないと思う。
















私自身も本当のファンの方々と比べたら
この映画への思い入れと解釈の深度はウンコです。

が、そんな私でも

"人は皆そう思いたがる"

あのセリフには痺れすぎて泣けた。
これ、CGじゃないと聞きました。
こういう映像美としても充分楽しめます。















デカルト先生もきっと唸る"人間とは何か?"を問い続ける160分。

しかしドライヴと言い、
ゴズリングはいつになったら報われるイケメンになれるのか。















まぁあの絶妙な悲しみの顔芸は、彼にしか出来ないから良いんだけど。

2018年1月30日火曜日

映画『ダンケルク』82点



クリストファー・ノーランらしい時間軸を使って構成された戦争映画。

が、それと同時にノーランらしくない106分という
鑑賞者側とすればありがたい適尺にまとめあげてきた戦争映画。
※前作の『インターステラー』(86点)は169分
『ダークナイト・ライジング』は165分
『インセプション』は148分



IMAXを思う存分使った美しい映像は見ものだし、
スマホは持たないと噂の奇才・ノーラン















ほぼ台詞がない中で緊張感を持続させる音の演出など、
全てが高レベルに凝縮された優れた作品であることは間違いない。
アカデミー賞を始め多くの賞にノミネートされたわけだが
この映画、評価がめちゃくちゃ難しい。


ハイレベルの中にたくさんの違和感がある。

まずノーランの「CGを使わない」という強いこだわりで、
数千数万という兵隊は、ダンボールのハリボテで表現するという
もはやコントじゃねーか!的映像。
もちろん言われなければ鑑賞中は絶対気がつきません。















戦闘機も実際に博物館か何かから引っ張り出してきて
飛ばしたっていうから奇才感半端ない。











が、しかし。
この映画に対して最も違和感を感じるのはそこじゃない。

ノーラン本人がインタビューで、
「戦争映画ではなくサスペンス映画だ」と銘打ってる割には、
救出のドキドキ感をエンタメ的に煽る作りにはなっていないし、
戦争映画おきまりとも言える戦場に放たれる兵士たちの人生模様、
家族背景的な物語はほぼ排除されているのだ。
一番左はワン・ダイレクションのハリー・スタイルズだが
どんなキャラか忘れた。














だから誰にも感情移入できない。

だけども圧倒的高レベルの映像美と音楽と音響効果によって
終始「いつ死ぬかわからない」という緊張感を
兵士たちと共に体感させられ続けるという謎の視聴体験。

これはノーランクラスの巨匠なのだから
絶対に”あえて”こういう作りにしているんだと思う。

その意図は何なのか?

「戦争」を「物語」として描くのではなく、
ただ「戦場そのもの」を描きたかったのだろうか。

戦場において兵士たちの家族背景や物語など全く意味がない。
そこは生きるか死ぬかの場所でしかないのだ。

そいつがどんなに良いやつでも悪いやつでも生きるか死ぬか。
そいつがどんなに大切で失いたくないものを背負っていようと関係ない。
突然死が訪れる。物語?そんなの関係ねえ!
そんなものおかまいなしに死が不条理に訪れる!それが戦場だ!

ってことなんですかねノーラン先生。

2018年1月25日木曜日

『わたしは、ダニエル・ブレイク』89点


Amazonプライムにて遅ればせながら観賞。

静かだが、とてつもないエネルギーを持った映画を観た。
この映画には見過ごされているヒリヒリした現実と
現代社会の縮図が圧倒的な密度で凝縮されている。

あらすじはこうだ。

59歳にして心臓病にかかりドクターストップで
働くことができなくなったダニエル。

そこで国からの金銭的援助を求めて福祉事務所を訪れるんだけど、
まるで松本人志のコントかのように複雑過ぎる手続き。

ようやく乗り越えたと思っても、就労不可の認定が下りないという
不条理ブラックコメディかのような現実を突き付けられる。
で、ついには公務員相手に切れちゃう。













そんな時、同じく理不尽さを目の当たりにして激高しちゃう
移民系のシングルマザーに出会う。
で、ダニエルは彼女をかばい、公務員に切れて追い出されちゃう。












つまりこの映画では、
民主主義国家における「福祉」とは何なのか?
そして、「福祉」とは本来、”弱者”を守るものであり、
いやむしろ”弱者”ではなくても、
”国民”を国家が守る制度であるわけだが
これがいかに機能していないかという現実を
80歳の巨匠ケン・ローチは真っ向勝負で胸に突き刺してくる。

そしてうまいなと思うのが
(80歳の巨匠に「うまいな」ということ自体がコントだが)
ダニエルやシングルマザーのケイティに”THE公務員”的に
マニュアル通りにビー玉のような目で説明対応する公務員達の描き方だ。












観賞者は序盤、まるでコントのように社会(福祉)から見放される
ダニエルに「気の毒だな…」とシンプルに感情移入する。
しかし、公務員に逆切れして、嫌味としか言いようがない暴言を吐いて
立ち去るダニエルやケイティのシーンを見ているうちに
なんだか今度は少しだけ公務員側の気持ちになってしまうのだ。

あれ?この人(公務員)たちも社会制度の被害者なのでは?と。

だって60前後のおじいちゃんが
逆切れしたくなるほどの制度を作っているのは
彼らではなく、政治家なんだから。

現実をなにもわかっていないのは彼らではなく、政治家なのだ。
でも80歳の巨匠は、決して”公務員側の苦悩”みたいなものを
この映画では描かない。
徹底して社会的弱者側の目線で映画を進めていく。
2006年麦の穂をゆらす風』でもパルムドール受賞













その理由はパルムドールの受賞スピーチで語られている。

映画にはたくさんの伝統がある。
その一つは、強大な権力を持ったものに
立ち向かう人々に代わって声をあげることだ。
そしてこれこそが、私の映画で守り続けたいものだ。

この言葉通り、映画は始めから終わりまで徹底して
巨大な権力(政府)批判のスタンスを貫き続ける。
申請が通らなすぎてムカついて役所の壁に落書きして
通りがかりの無職のおじさんに絶賛されるダニエル












80歳の巨匠が描いたその”声”は、
観賞者にこれでもかというほど届いて響く。
知るべき現実がこの映画には詰まっている。
貧困から空腹に耐えかねたケイティは…
このシーンは思わず目をそむけたくなるほど”残酷”だった…















そして個人的に最も泣けたのは、
体調を崩し、家にこもっていたダニエルを
ケイティの娘が尋ね、ドア越しに語りかけたシーンだ。










娘「1つ聞いていい?前に助けてくれた?」

ダニエル「たぶんね。」

娘「じゃあ助けさせて。」

ー無言で扉を開けるダニエルー


泣ける。

”あなたは私を助けてくれた”
だから今度は”私があなたを助ける”

この当たり前といえば当たり前、
人間の”良心的本能”ともいえる行動。
あなたは出来ていますか?
そう問いかけられているようで、観賞後、思わず巻き戻し、
このシーンだけ3回くらい観直した。
まるで道徳の授業を受け直すかのように。

一度は表明した引退を撤回してまで
80歳の巨匠が描きたかったイギリスというか世界の現実。

人と人とはこうあるべきだということを濃密に描いた
2度目のカンヌ映画祭パルムドール受賞も納得の傑作。

90点に届かないマイナス1点は、
”思想が強すぎる”という個人的感覚です。
巨匠、生意気言ってすみません。